目が綺麗だなって、思ったの。
つぶらな瞳が輝いて。

ねぇ、君はここで何をしているの?

迷い子の休日

「・・・」
「にゃー」
私は今、バス停の前にいます。
散歩をしていたのに、思わず足を止めてしまいました。
「猫さん、どうしてゴミ箱の中にいるの?」
「にゃー?」
「お名前は何て言うのかしら?私はさなえよ」
「にゃぁっ」
猫さんは私が名前を言うと、突然飛び付いてきた。
「にゃにゃぁ」
「もしかして私の名前呼んでくれてるの‥?」
「にゃにゃぁ!」
「嬉しいっ!」
私は猫さんを抱きしめました。
この猫さんが、可愛くて可愛くて仕方がありませんでした。

「猫さん、私のお家にくる?」
「にゃ?」
「そしたら毎日会えるわ」

そうだ、私のうちで飼えば、きっと猫さんも喜ぶはずよ。
その時の私は、そうやって思っていた。

だけど。





「ししゃも!」
「にゃにゃーにゃぁ!」
私と猫さんの横から大人のお兄さんが現れた。

誰だろう?
それにししゃもって?

「君、こいつに噛まれたりしてない?大丈夫?」
「あ、え、はいっ、全然‥」
「そうだ、えっと、僕はサトウって言うんだ。こっちは‥」
「にゃーにゃ!」
猫さんがサトウさんのあとに続けて言った。
「にゃぁ‥にゃ?」
私には何て言ったか全然わからなかった。
「ししゃもって言うんだ、こいつ」
「し‥しゃも‥」
「なかなか話さないやつなのにね、君には懐いたみたいだね」
「私に?」
「うん」

何だかその言葉が無上に嬉しかった。

「ずっとこのゴミ箱の中で過ごしてたみたいだよ、ししゃも」
「ずっと‥」
「うん、でも強く生きてた。凄いよ、こいつは」
サトウさんはそう言って鞄の中から魚の形をしたクッキーを出した。
そしてししゃもを撫でながらそれをあげた。

「あ、会社の昼休み終わっちゃうや、また後でね」
そう言うと、サトウさんは急いで走って行ってしまった。

「ししゃもは‥サトウさんが大好きなんだね‥」
私はししゃもを抱き締めながら言った。
「もしかして、ここでずっとサトウさんを待ってるの‥?」
なんて、言ったらししゃもは黙って私に顔を擦り付けた。
私は少しだけ、涙が出そうになった。

「ごめん、私帰るね」
「にゃ、にゃぁ‥」
「ばいばい」

ゴミ箱から見つめるししゃもに私は手を思いきり振った。
その後はもう、涙で前が見れないくらいになった顔で必死に走った。

何だかもう、

君に会えない気がしたから。





次の日の朝にまたあのバス停に行ってみた。
少し期待もしていた。
会えたら、って。



でも。



「ししゃも‥」
ゴミ箱の中には何もなかった。
ただ、一枚の紙切れが入っていただけだった。

「‥何これ?」

そこにはサトウさんからメッセージが書いてあった。



黒髪の昨日の女の子へ。
昨日はししゃもと遊んでくれてありがとう。
ししゃもは僕が引き取ることにしました。
だけれど、ししゃもが悲しそうな顔をするんだ。
ししゃもは君のことが好きみたいだよ。
ときたま見せるその悲しそうな顔が、僕には辛いんだ。
だから、もしよければ遊びにきてください。
サトウより。




「ししゃも‥!」

文の最後に書いてあった地図を頼りに、私はバスに乗り込もうとした。
けれどゴミ箱近くにふと目をやると、見覚えのある鞄を見つけた。

「これ‥サトウさんが持ってたやつだ‥!」


その鞄を手にとって、私はバスに乗り込みました。

地図を頼りに、君に会いに。









「・・ししゃもっ!!」

小さく見えた姿に私は叫ぶ。
アパートの前に見える君に私は叫ぶ。

駆け寄る君が私の胸元にやってきた。

「ししゃも、ししゃもっ!!」
「にゃにゃぁ、にゃにゃぁ・・」

私はししゃもをギュッと抱きしめた。

「ずっと、ししゃも、君のことを待ってたよ」
「・・サトウさん・・」

「にゃぁ・・」
「ししゃも・・」

私はまたギュッとししゃもを抱き寄せた。

「あ、そうだ」
「どうしたの、さなえちゃん?」
「この鞄、サトウさんのですか・・?」
「あぁ、これ、わ!昨日バス停においてっちゃってさ、ありがとね」
「い、いえ」

少し照れて、私はその後また、ししゃもを見た。
つぶらな瞳が、こっちを見てくれていた。

それを見る度、ほっとして、安心できた。


「ししゃも、大好きよ」






今日、また君に出会えた幸せを。

さなえちゃんとししゃも。
なんだかサトウさんはどんな役目を・・・
しかも最後とかさなえちゃんはサトウさんに鞄渡しただけですか(´・ω・`)
そのあとの進展やいかに!みたいな。
※2007/08/17にこの小説をもとに同人誌発行しました。現在販売はしておりません※

2004/08/26