会えない時間

二月、寒い日がまだ続く中、自分で何かを期待していた。
「よう!もうすぐバレンタインだな!ハヤトはどうよ?」
学校でリュータ先輩がいきなりそう話しかけてきた。
「どうって・・何がですか・・」
「もちろんもらえるかだろー。で、どうよ?」
「どうって・・」

そう、二月と言えばバレンタイン。
俺も内心、期待をしていた。
あの子から貰えるのを・・

「俺はな!」
「ミミちゃんから貰えるんですね?」
「うぉっ!?何で分かった!?そうなんだよー、ミミちゃんがさー・・」
こうなったリュータ先輩を俺は止められない。いきなり語り出すのだ。
しかしまぁ、ミミちゃんが渡すのは義理だろうけれど。
なんて、先輩には口がさけても言えないが。

「お、お前ら何話してんだー?」
「DTO先生!」
二人で話していたところに現れたのは、DTO先生だった。
「先生はバレンタイン!誰かに貰うんですか!?」
リュータ先輩は目を輝かせて聞いていた。
「あーその話してんのか、お前ら・・」
「先生っ!」
DTO先生が「お前らは?」と聞きそうになったのを俺は止めた。
またリュータ先輩が語り始めるのだけは勘弁してほしい。

先生は何か分かったように「あー・・」と言った。
「俺は貰えるっつーか・・何かすでに後ろで、ほら」
「え?」
先生は俺らの後ろを指差した。するとそこには・・
「ミサキさん!!」
「先生ひっどーい!あたしから貰えるってすぐ言えばいいのに!」
「あー・・そうゆうことだ。ミサキ、学校は部外者禁止、帰れ」
「あたし先生にお弁当渡しに来たのに!そんな言い方っ・・」
「わかったわかった、泣くなって・・ほら、行くぞ」
「うん・・」
「悪りぃな、またな」
そう言うと、DTO先生とミサキさんは向こうに行ってしまった。

「・・ミサキさんって本ッ当、先生好きだよな・・」
「ですね・・」

あれだけ上手くいってるのが凄い羨ましかった。



・・あの子は、バレンタイン・・覚えてくれてるかな・・


少し不安になった。
何日も会っていない。
しばらく会えないと口にされ。
何も知らないまま俺は今。






寒い、寒い日。
バレンタインデー当日を迎えた。
女の子達が皆して手に荷物を持っている。
告白する子とかもいるんだろうか。
そんな妄想を働かせつつ、俺は学校へ迎った。



「ハーヤト!!」
「わっ!?」
学校に迎う途中、ピョンッと後ろから飛び付いてきたのは・・
「ビ・・Bis子・・」
「えへへ、驚いたー?はいっ、これ!」
「これ・・?」
「バレンタインでしょー。チョ・コ・レ・イ・ト!」
綺麗に包装されていたそれは、開けるのが勿体ないくらいだった。
「あ・・ありがとう・・」
「言っとくけど義理だからね。本命ちゃんと貰うんでしょ?」
「・・あぁ・・」

あの子は・・本当にくれるのだろうか・・。

学校に着くと、そうそうと誰かが女の子に囲まれていた。

「だーめ!先生にはあたしがいるんだから!」
「お、おい、ミサキやめろよ」
「先生は黙ってて!」
DTO先生が女生徒達にチョコを渡されているところをミサキさんが止めていた。

「さすが先生ーモテモテだなー」
突然、その声とともに後ろから肩に手をかけられた。
声ですぐに誰だかわかった。あの人だ。
「リュータ先輩はどうだったんですか?」
「今メールしてる最中なんだよー。へへっ!」
「楽しみですね」
「お前もな!」
先輩はそう言いながら、バンッと背中を笑いながら叩いた。



不安だらけだった。
嫌われたのかな、なんて考えた。


こんなにも、あの子が愛しい。
大好きなんだ。本当に。


だから、だからこそ待っていて・・



「いやしいなぁ・・」
「どうしたん?」
「いや、何でもないです・・」




チョコが貰いたくてたまらないってわけじゃない。
でも、期待してる自分が嫌で嫌で。

なのに、一番欲しいものは手に入らなくて。








「ツララ・・」





会いたいよ、ツララ・・










学校のチャイムが鳴り響く。
結局、何も起こらないまま今日も終わろうとしていた。
窓から校門の方を覗くと、リュータ先輩が走っているのを見つけた。
校門の前にはミミちゃんが待っていた。

「・・いいなぁ・・」

思わず溜め息をつきながら口にしてしまった。



「・・帰るか・・」



スケボーを腕の中で抱えておさえる。
帰り道を歩きながら、空を見上げる。

あの子のことを考えながら。




途中の河原でBis子を見つけた。
何だか物寂しそうに河を眺めていた。

「・・Bis子?」
俺は思わず声をかけた。
Bis子は気付いてこっちを振り向いた。

泣いていた。



「ど・・どうしたんだよ・・」
「・・ううん、ただ・・少し切なくなって・・」
「・・何かあった?」
「な、何もないよ」

それでもBis子は淋しそうに河を眺めていた。

小石を投げながらBis子は口を開いた。
「ツララには会ったの?」
「え、いや・・全然・・」
「そっか・・」
「うん・・」

沈黙が続いた。
その沈黙を、Bis子がやぶって話しだした。

「ツララさ、ハヤトのこと、絶対大好きだから」
「は・・?」
「あたし、わかるから」
「わかる・・って・・」
「きっと今もハヤトのこと考えてる、絶対ね」
「そ・・そうかな・・」
「今日は・・会えるはずよ、女の子にとって・・特別な日だから・・」

Bis子は涙目の顔を思いっきり笑ってこっちを向いた。
そんなBis子を見て、俺も笑って答えた。

「ありがとう、Bis子、俺・・行くよ・・」
「うん、またね」
「・・なぁ、Bis子・・」
「・・うん?」

「俺でよかったら、何でも話聞くから・・言いたくなったら言ってくれな」

今の俺には、泣いていたBis子に、それしか言えなかった。
すると、Bis子は笑って言った。

「うん・・ありがとう・・またね」
そう言って、Bis子は手を振った。

そんなBis子を見ながら、手を振りつつ河原を後にした。







その時は全然気付かなかった。
Bis子が俺の背中をずっと見ていたことなど。

泣きそうな顔で、見ていたことなど・・









「・・女の子にとっての特別な日・・か・・」

待ってる、ずっと待ってるよ。
でも、今もどこにいるのかがわからないんだ。


「ツララ・・どこにいるんだよ・・」




どこに行けば会えるんだろう。
どうしたら会えるんだろう。



「・・ツララ」






そんな時、ふと頬に何かが当たった。
「わっ!?」
俺は凄くビックリして慌てた。


「えへへ、驚いた?」

頬に当たったのは手の平で、思わず俺はその手を押さえた。

その手は。



「・・どうしたの?ハヤト?」
「ツ・・ツララ・・」

長い髪が揺れていた。

ツララだった。





「ツララっ・・」

俺は思わずツララのことを抱き締めた。
「わ、わ!?ハ、ハヤト!?」
「ツララ・・お前何今まで・・」
「え?え??」




淋しかった。
でもそれを口に出来なかった。

話せなくて。
ただ、会えて、触れられたのが嬉しくて。




「ハヤトってば、ちょっと!離してって、ば!」
「あ、わ、ごめ・・」
「もーっ、何ー、久し振りでイキナリー・・」
「だ、だってツララ何も連絡くれなかったし」
「連絡?だってハヤト携帯ないじゃん」
「う・・」
「だからリュータ先輩にメールして伝言頼んでたんだけど聞いてなかった?」
「き、聞いてないし」
リュータ先輩のことだ、ミミちゃんのことしか頭になくて伝言なんて言葉は・・

「・・かなり・・心配したんだかんな・・」
「でもあたし連絡してたもん、あたしのせいじゃないじゃん・・」
「・・うん、ツララのせいじゃないよ」
俺はツララの頭を手でグイッと自分の胸に置いた。

ドキドキしながら。


「・・えへへ、ハヤトー・・」
「うん?」
「あたし、ハヤト大好きだからね」
「・・俺もだよ」

ニコッと笑ってツララは俺を見た。
そんなツララを見ながら俺はツララの頭を撫でた。


「・・なぁ、今まで何してたんだ・・?」
「あ、うん!そうだ!」
ツララはそう言うと、手に持っていた荷物をガサガサと開けた。
そして・・

「はいっ!」
「こ・・これ・・」

首にまかれたそれは、マフラーだった。
「これね、ずっと作ってたの」
「マフラーを・・?」
「初めてだからいっぱい時間かかっちゃって・・」

そのマフラーは上手いとは言えないが、凄く、凄く暖かかった。


「・・バレンタインのプレゼントとして・・受け取ってくれる・・?」
ツララは少し赤らめながら言った。

「うん・・ありがとう」
俺は笑顔で答えた。

「あ、あとこれも!」
「え・・あ・・うんっ」

「また、明日ね!ハヤト!」
「お、おう、またな」

ツララはそうゆうと、走って行ってしまった。
最後の最後まで、ツララは顔を赤らめていたのが見えた。

「何だろ・・これ・・」
最後に受け取ったものが何だか分からないままだった。


「何だ・・?」



受け取った袋の中には、チョコと手紙が入っていた。

「チョコ・・手作りだ・・」
チョコを手にした後、手紙を手にした。

『ハヤトへ。
ハッピーバレンタイン!
マフラー気に入ってくれると嬉しいなぁ。
チョコも美味しいって思われれば幸いです。
これからもずっとずっと宜しくね。
大好きだよ。
ツララより。』



「ツララ・・」






嬉しかった。
凄く、凄く。



こんなにも俺のことを想っていてくれた。









チョコを一口食べてみた。
見た目は悪かった、けれど。

「甘い・・美味しいや・・」






このマフラーと、このチョコで、明日から乗り切れると思った。

「・・ありがとう」

心の中でも思いながら、ツララからのプレゼントに向かって言った。




淋しさなんか、もうないよ。
あの子の温もりもまだ残ってる。






「・・よしっ!」


明日あの子に会ったら伝えよう。








ありがとう。
大好きだよ。



と・・―――

バレンタイン小説って感じで作ってみました!ハヤツラ要素が何だか危ういです。
一応中身としては、リュータ→ミミ→? ミサキ×DTO Bis子→ハヤト×ツララ
みたいな感じなのかな・・。Dミサとか全然書いたことないのでこんなで平気か微妙なんですが。
何か書き方がハヤト視点だけど、ハヤトの性格が変な感じでorz
むしろツララも乙女心万歳な感じか・・!何だか訳のわからない小説になりましたね!あわわ。
とかで、バレンタインですよですよ。乙女の日。
告白は勇気がいるのです。懐かしい思い出にひたろうと思います。

2005/02/13