「あたし、もうアイドルやめるっ!!!」

そう言って、あたしは逃げた。

逃げだよ、そうだよ。分かってるよ。


でも、あたしだって。

普通の女の子、してみたかった。

羽のない天使

「ハァ‥ハァ‥ここまで来れば大丈夫っしょ‥」
事務所から何分走ったか覚えてない。
でも、あたしの知らない町にいた。
きっとここなら大丈夫。見つかりっこない。

あたしは、今、自由だ‥!




「‥あれ‥何あの子‥」
遠くで、女の子が紙飛行機を片手に持って急いで走っていた。
前髪をピンで両方とめていて、後ろ髮は二つに結っていた。
上にジャージを着て、いかにも普通にいるような女の子だった。

「何か‥地味な子‥いいなぁ‥」
あたしは、そんな彼女が羨ましくて、見つめていた。
すると、彼女は突然コケて頭を打った。
「わ、何もないとこでコケたよ、ドジッ子だ」
なんて言ってる場合じゃない、周りに誰もいないし、もしものことがあったら‥―――

タッ‥

あたしは、思わず彼女のもとに走っていってしまった。
ああ、これで逃亡人生も終わりかなって思った。
彼女があたしをアイドルのリサって気付いて、終わるのかな。

でも、彼女に魅かれたの。
何だかわかんないけど、これがあたしの本心だ。
だから、後悔なんてきっとしない。
きっと‥―――




「だ‥大丈夫?」

しーん‥

彼女は返事をしなかった。
沈黙だけが続いた。

「も‥もしかして‥打ちどころが悪くて死んじゃったとかないよね‥?」
カナリ不安になった。
このまま三面記事に載るかもしれない。リサ人殺し?!とか。
わ、困るし。ああ、こんな運命になるなら逃げるんじゃなかった‥―――

むくっ。

そんなことを考えていると、彼女は自然と起きあがった。
あたしはカナリ、ビックリした。
「わ、ビックリした!だ‥大丈夫‥?」
彼女は周りをキョロキョロし始めた。理解したのか、手をポンッと叩いた。
「‥飛行機!」
「ひ‥?」
大事そうに持ってた紙飛行機のことかな、とすぐ頭にピンッときた。
「もしかして‥紙飛行機のこ‥―――」
ビリッ

「あっ」

あたしが少し後ろに引くと、それは見事に破けてしまった。
「あっ‥あっ‥ご‥ごめん‥」
「‥いえ、大丈夫!紙飛行機作るのも楽しいから!」
彼女は笑顔でそう言った。何でか、どきどきした。

もっと、彼女のことを知りたいと思った。

「あ、あの!あたしも紙飛行機作りたい!」





あたし達が繋がるキッカケだと思った。
これを逃したら、もう会えない気がしたから。

だって、もっと一緒にいたいと思ったから。







「うんっ、一緒に作ろう!」
「‥!ありがとう!えっと‥」
「あ、名前ね、私はサユリ。あなたは?」
「あたし、リサ!リサよ!」
「元気いっぱいだね、宜しくね、リサちゃん」
「ううん、こっちこそ宜しくね、サユリちゃん!」



握手をした。そりゃもうぎゅうっと。




あたし達はその時、友達になった。



って‥―――


あれ、待って。あたし仮にもアイドルだよ、気付いてないだけ?あれ?
でも‥―――

「?行こう、リサちゃん」
彼女は何も言わないで手を差し延べてくれた。
だから、あたしも何も聞かないで手をとった。
「実は紙さ、買ってこないとないんだよね」
「あ、そうなんだ‥なのにあたし‥破いちゃって‥」
「ううん、私紙飛行機作るの好きだから!また作れるのも嬉しいんだ。本当だよ」
彼女はニッコリ笑ってあたしに言った。
あたしは何も喋れなかったけど、嬉しかった。


こうやって、友達といられるのは何年振りだろう。
いつもいつも、周りには大人の人ばっかりで。
仕事場の同世代の子は、殆ど話したことないし。
普通って、何だろう。
今あたし、普通の女の子やれてるかな。
あたし‥―――


「着いた!ちょっと待ってて‥ね?わ!リ、リサちゃん!?」
「‥‥‥」
何故か自然に涙が零れてた。

嬉しい?淋しい?

違う。

あたし、バカだ‥―――






あたしは、あたしの生活が普通の生活じゃなかった‥?







これは、今、ただの憧れの生活なのに‥―――








「リ、リサちゃん、ちょ、ちょっと待っててね!?」
そう言うと、サユリちゃんは目の前のお店に入っていった。
そして、少しして、戻ってきた。

ガシッとあたしの腕を掴んで彼女は言った。
「来てっ!」
彼女は、そう言うと、風のように走った。
あたしを連れて‥―――









「‥っしょ、ここでいいかな」
「サユリ‥ちゃん?」
「リサちゃん、ほら、持って、これ」
「え‥?」
サユリちゃんがあたしに渡してくれたのは、紙飛行機だった。

「こうやって飛ばすの」
彼女はあたしに微笑んで、自分の手に持っていた紙飛行機を空に投げた。
その紙飛行機は、ずっと、ずっと空高く飛んだ。

「こ‥こう‥?」

シュッ‥

あたしは、サユリちゃんの紙飛行機を投げた。
その紙飛行機は、上手く飛べずに地面に落ちた。

「あ‥」
その紙飛行機を見て、あたしだ、と思った。

上手く歌えない、でも、周りでは皆成長していって。
あたしは、一人だけ、羽のない天使みたいで。
皆は空を飛ぶのに、あたしだけ飛べない。進めない。
あたしみたい‥―――


「‥こうやるんだよ」
サユリちゃんがあたしの手をとって紙飛行機を飛ばす。
一緒に投げた紙飛行機は、綺麗に空を舞った。

「わ‥飛んだ‥!」
「飛べない天使はいないんだよ」
「え‥?」
サユリちゃんはあたしに言った。

「助けてくれる人がいるよ、だから、飛べない天使はいないの」
「‥‥‥」
「私、リサちゃんの歌、大好きだよ」
「え!?あ‥気付いてたんだ‥」
「うん、まさかとは思ったけど、さっきお店でリサちゃんのニュースやってたし‥」
「わ、ニュースまでわたっちゃってんだ、やば‥」
あたしがおどおどすると、彼女はソッと抱き寄せてくれた。

「リサちゃんの歌ね、元気になれるんだよ。」
「あ‥」
「一人で抱えこんじゃダメだよ。歌うの‥好きだもんね」
「ふっ‥うあああんっ!!!」


そうだ。あたしは、あたしから逃げてたんだ。
あたしが嫌で、あたしは自分を捨てていた。
でも本当は誰かに気付いてほしくて、支えてもらいたくて。
そんな、友達が欲しかったんだ。
あたしを空に飛ばしてくれる、友達が‥―――






「ねえ‥サユリちゃん‥」
あたしは彼女の胸の内で言葉を発した。




「あたしの‥友達になってくれる‥?」







これが、今のあたしの精一杯の勇気‥―――







すると、彼女はグッとあたしを引き寄せて言った。


「‥友達だよ。ずっと、すっとね」






あたしは泣いた。
思いきり、彼女の中で泣いた。






嬉しくて、あたしは泣いた。










その日、あたしは事務所に戻ってたくさんたくさん謝罪した。
迷惑ばかりかけて本当にごめんなさい。
テレビでも、あたしは謝罪の言葉を言った。
でも、誰もあたしを責めなかった。
皆が、泣きながら笑って、言ってくれた。

「おかえり、リサ」って‥―――













あたしは、今日も唄を歌う。






「‥リサ!」

彼女が、あたしの名前を呼ぶ。




「‥サユ!」




あたしも彼女の名前を呼ぶ。







あたしは今、サユと一緒に過ごせてるの、幸せだよ。
初めて会った時、何か運命感じたんだ。だから。
あの日、出会えて本当によかった‥―――








「リサ‥?どうしたの‥?」
「へへ!何でもないよーだ!」
「んもー怪しいなあー‥」
「ふふ、サユ、大好きだよ」
「‥うん、私もだよ、リサ」








あたしは唄う。
白い羽を飛ばして。



あたしは唄う‥――――

これは本当あたしの中でなんですけど。サユリとリサは仲良しだと思うのです。
明るく元気なリサには、サユリちゃんみたいなおっとりした子がお似合いとか思ったりで。
まぁでもこれだとリサがサユリちゃんのこと大好きなのですが(*´∀`)
とりあえず出会いは突然こんなところからーって感じで!
・・サユリちゃんって高校生でいいのかしら・・!?そこだけ疑問。
いや、もうあたしの中で高校生なので。リサは凄い今時の高校生が思い浮かぶので。
そんな感じで、いつかこの二人の友情モノで同人誌作ってみたいなーと思っています。
何つか、もしかしてポップンで友情モノ小説って初めて?
またこの二人で色々書きたいなーとか思っています。マイナーすぎてごめんなさいorz

2005/03/26