「一緒に歌おう」
そう、彼女は言った。

彼女と謳と

今日はとても天気がよくて、僕は彼女を誘って出掛けに行った。
彼女は凄く嬉しそうに返事をしてくれて、僕も凄く嬉しかった。

日が差して、雲一つない晴れ晴れとした今日。
僕は彼女と二人、住むところとは少し離れた小さな野原にいた。

「風が気持ちいいね」
彼女は言った。
風になびく彼女の長い髪が、凄く綺麗だった。

僕は、そんな彼女をずっと好きだった。
昔からずっと一緒にいて、感情に気付くのに随分かかってしまったけれど。
僕は、今日ここで伝えたいと思っていた。
でも告白して、二人の関係が崩れてしまったら?そんなことも浮かんだ。
けれど、もし少しでも可能性があるなら、勇気を出してみたかった。

僕は今日のために、彼女の詩をつくった。
彼女のために、想いをこめた、この詩を歌おうと思っていた。

僕はギターを片手にここにいる。
彼女の笑顔と一緒にここにいる。

「…くん…ねえってば!」
「わ!え!な、なに!?」
「もー…」
「ご、ごめんっ」
「うふふ!いいのよ。ねえ、ギター、きかせて?」
「…もちろんだよ!」
彼女が僕を眺める。僕はギターを手に持ち弾く。

「やっぱり、いつ聞いても素敵ね」
野原の中、二人。風とギターの音。
僕は、緊張が高鳴っていた。鼓動がはやくなる。
目の前、すぐ手の届く場所に彼女がいて、彼女のしぐさ全てが、今だけ僕のもので。

「…っさ…!」

僕はギターを弾きながら、彼女の名前を呼んだ。

その時だった。


「にゃー…」



どこからか鳴き声が聞こえた。
彼女はその声にすぐに反応して、立ち上がって、
僕の頭上でこう言った。

「…ししゃも!!!!」

彼女は、ししゃもを見つけると、一気に走り出して抱き締めた。
ししゃもを追いかけるかのように、後ろからスーツの男性が来た。

「あ…さなえちゃんにスギくん!こんにちはー…はぁはぁ…」
「こ…こんにちは…」
「こんにちは、佐藤さん!ししゃもも、こんにちは」
「にゃー!」

彼女はししゃもを抱き締めたまま、ずっとずっと笑顔でいた。

僕は、知っていた。
彼女が、ししゃものことが大好きなこと。
でも。
望みはあると、思っていたんだ。この恋がうまくいくという望みが。
だけど。

「ししゃも、一緒にお話しようか」
「にゃにゃあ!」
「ふふっ」




あの笑顔は、僕にくることはないと思った。





「ボクの家が近くでさ、いきなり、ししゃもが走っていってね」
「………」
「とりあえず仕事は遅刻ってしたんだけどさ」
「………」
「…えっと…邪魔しちゃったかな…?」
「………」
佐藤さんは、僕の横に立って言ってきた。
僕は何も答えられなかった。男として、情けないけど、泣きそうだった。

「…ギター、ここ来る前から聞こえてたんだよ」
「………」
「もしよかったら、聞かせてもらえないかい?」
「………」

僕は、持ってるギターを眺めて思った。
気持ちが伝えられなかったあの曲。
今目の前で楽しそうな彼女の前で、弾けるだろうか。



…僕は、ギターの弦を一つ弾いて悩んだ。
すると、彼女は僕に言った。

「スギくん!さっきの曲、聞かせて!」

彼女からのリクエスト。
僕はハッとして驚きながらも、不器用な笑顔で返す。
隣りの佐藤さんも、頷いて、僕の音を待っていた。

彼女は僕を見る。
一匹の猫を抱き締め、僕を見つめる。

そんなに見ないでくれよ。
涙が出て来るから。
その綺麗な瞳、今の僕には辛過ぎるよ。



…ジャーン…

リズムをとる僕。
彼女の為に作った、あの詩は歌えないけれど。
彼女が望む、この伴奏だけは、届けるよ。




僕は奏でた。彼女の為の曲を。


晴天の中、野原に三人と一匹。
風と一緒に僕の音が流れる。


「…〜ら♪」

その静かな中、歌が聞こえた。

「らんらんっら…♪」彼女が、歌っていた。

僕は、彼女の歌と一緒に奏でる。
彼女の為の曲を奏でる。



「…っギくん!」
「え?」

彼女は言った。

笑顔で言った。

「スギくんも、一緒に歌おう」


僕が初めて見た、今まで一番の笑顔だった。



「ししゃもも佐藤さんも一緒に歌いましょうよっ」

彼女は言った。
佐藤さんの手も取り、彼女と佐藤さんとししゃもは輪になり歌う。
僕は少し離れて、曲を奏でる。



「歌えないよ…」


僕は小さく呟いた。
彼女たちに見えないように、涙を流しながら言った。

そして僕は、彼女の歌声を聞く。


その楽しそうな声を聞きながら、


僕は一人、小さく、彼女の為の歌を歌う。。

久し振りに悲恋もの書きました。てゆか小説自体久し振り!
珍しく男→女で悲恋とかそんな。スギくんはさなえちゃん大好きなのですよ!自分の中では。
でも、さなえちゃんはししゃもオンリーラブだから!あらあら。
だからこんな感じの小説になってしまわれましたと。
悲恋ものは書いてて切ない感じ。でも好き。
小説これからもアップできたらいいなぁ、なぁ。頑張ります!

2006/06/10