…どうしてこんなに空は青いんだろう。

スケッチブック−前編−

「やっべぇ、白の絵の具がねぇや」
学校の帰り際、河原の近くで絵を描いている一人の少年がいる。
彼は毎日学校の帰りにスケッチブックと絵の具を持って、この河原にくるのだ。

バシッ!
いきなり、彼の頭に誰かの鞄がぶつかった。
「渚ってば、またここで絵ぇ描いてるの!?」
「いちいちうるせぇな…俺の勝手だろ」
神崎渚(かんざきなぎさ)は、この河原で絵を描くのが日課になっている。
河原の近くには小さな文房具屋があり、渚はいつもそこで画材を手にいれているのだ。
一方、毎日絵を描いてる渚にちょっかいを出してくるのが木更香織(きさらかおる)。
幼馴染みというわけではない。中学に入ってからやたら渚に構ってくる女だ。

「今日は空?」
香織は渚のスケッチブックを覗きこみながら言った。
渚の今日のペ−ジは、淡い透き通るような水色一色で染まっていた。
でも、その一色で他の色は混ざっていない。
「雲…塗らないの?」「白の絵の具がねぇから。財布忘れたから買えねぇし」
それに、今日は雲で空を隠したくなかったから…。

渚は更に青で空を塗っていった。香織は渚の隣で、それをジッと見ていた。
すると、渚と香織の背後から小さな声が聞こえた。
「淋しい色…貴方、辛いのね…」
渚はバッと後ろを向いた。それにつられて香織も後ろを振り返った。
そこには、この夏の暑い中、黒いワンピ−スを身にまとった18歳くらいだろうか、
渚達よりも年上に見られる女性が立っていた。
その女性の腰まである長い髪が風で綺麗になびく。彼女は顔立ちも良くて、大和撫子のような印象をあたえる。
「悲しいわね、青一面で…貴方の心が見えてくるわ…」
渚を見下ろしながら、その女性はゆっくり言った。
そして、その場から立ち去っていった。
二人は何も言えずに、ただその人に見入ってしまっていた。
ハッと渚は正気に戻った。しかし、もう、その女性は見あたらなかった。
…何だったんだろう。
二人はその場でしばし悩み続けた。

「ただいま…」
あのあと、しばらくしてから雨が降り始めた。
渚はスケッチブックを、香織は鞄を大事に抱えながら言葉も交わさず走りながら帰っていった。
渚が家に着いて放った一声の後に返事はなかった。
今朝から親が喧嘩をし始め、今日の家は空気がない。いや、人気はあるが、皆死んでいるかのようで。
バタン―――。
渚は自分の部屋に入ると本棚から一冊の本を取り出し、ベットの片隅に座り込んだ。
「…天音さん…俺もうヤダよ…」
本を見ながら渚が呟いた。
その本は天音壬琴(あまねみこと)さんが描いた画集で、渚が最も尊敬している人だ。
何か嫌なことなどがあると渚はいつもその画集を見ていた。
その天音さんの画集はパステル調の絵が何枚もあり、渚の…いや、見る人皆を魅了し、癒してくれるのだ。
渚はベットの片隅でそれを見ながら眠りについた。
心と体で大粒の涙を流しながら…。

初めて自分のサイトで公開した小説です。
過去の作品すぎてあんまり覚えてないです…。高校生のときに執筆しました。
中編、後編と続きます。