ベ ス ト フ レ ン ド

バイバイ、またね。
いつもみたいに交わした挨拶でした。

柊繭(ひいらぎまゆ)と藍河しずく(あいかわしずく)は幼稚園の頃から仲が良く、会う日も会う日も遊んでいた。
小学校にあがり、クラスが分かれただけで泣いた時もあった。
そのくらい、二人の関係は深かった。
中学にあがってから、それぞれの時を過ごし始めた。
思えば中学に入ってから私たちの関係は変わったのかもしれない。

「しずく、おっはよー!一緒に学校行こ♪」
「あ、繭、おはよう」いつものように繭がしずくの家に行って一緒に学校に向かう。
これがいつもの日課である。
でも、今日のしずくは何故だか感じが違う。
そんな気がした。
「あ!何か違うと思ったら!!しずくってばもしかして今、化粧してる!?」
「え、あ、わ、分かるかな‥えへへ…」
中学に入ってから、しずくはよく男の子に声をかけられるようになった。
しずく綺麗だもんね。幼馴染みの私が保証する!
私しずくのこと大好きよ。
いつも思ってた。
しずくの隣には私がいると思ってた。
でも今日は何かが違った。

「あれって日高先輩と藍河さんじゃない?」
「しずっ!!!??」
教室内でお喋りしている女子が外を見ながら言った。
お菓子を頬張りながらも繭は名前を叫ぶようにして窓の外を見た。
「どどどどこっ?!」
挙動不審になりながら繭は窓の外を見てしずくを賢明にさがした。
「繭ちょん、そっちじゃないよ、こっちだよ」
しずくを最初に発見した三奈達が手招きして繭を呼んだ。
それに気付いて繭は急いで三奈達のもとへ走った。
「ほら、あそこ」
「わわ、マジだ!しずくってば付き合ってる人いたんだ!!?」
「あれ、繭ちょん…藍河さんに聞いた事ないの‥?」
「うちら恋愛話なんてしたことないってー!!うわぁ、だからしずく、今日化粧してたんだっ!!!」
三奈たちは凄く驚いた表情で繭を見た。
それに気付いてか、繭は少し動揺した。
「性格とか全く違うのに繭と藍河さんって本当に仲良いよね」
三奈と一緒に居た風子が言った。
すると繭は堂々とこう言った。
「あったりまえじゃん!!だって幼稚園からの仲だもの!!私しずくのこと大好きだしねっ!!」
「でも本当の友達なら‥好きな人のことくらい言わないかな?」
風子が深刻そうな顔で繭を見ながら言った。繭はそれを聞いて少し止まった。
そういえば恋愛的な話は一度もしたことない。
この間、いつもなら見せてくれるプリクラ手帳も見せてくれなかった。あれは‥彼氏と撮ったのがあったから‥?
え、でも、何で言えない理由があるの?
うちらに秘密や隠し事はないと思ってたのに…。
凄く悩んでる繭に三奈達が言った。
「気にしないの!きっと今日言ってくれるって!!帰りにでも聞いてみな、ね?」
「大丈夫!二人の仲は不滅でしょ!?考えない考えない!!」
「三奈ピョン‥風子ちん…ありがとうっ!大好きっ!!」
そう言いながら繭は二人に抱き付いた。
きっと帰りに教えてくれる。そう信じながら。

キーンコーン、、、
たったったっ・・
下校のチャイムと同時に繭は急いでしずくのクラスへと走った。
聞くんだ、今日はしずくの恋バナ聞くんだ。
その想いを胸に秘めて。
キキッッッ!!!
「しずく!かえ‥」
帰ろうと言いかけたとき、しずくは誰かと話をしていた。
笑ってた。
最近、繭の前でも見せない極上の笑顔だった。
と、しずくが笑いながら繭に気付いて言った。
「あ、繭、ごめんね、今日はちょっと一緒に帰れないのよ」
ただ立ち尽くすしかできなかった。
動けなかった。

「…しずくちゃんの友達?」
しずくと話をしている相手が繭を見て言った。
今日、窓の方を見た時にしずくの隣に居た人だ。たしか名前は‥
「優くん、紹介するわ、私の幼馴染みの柊繭よ」
「すぐるくん?」
思わず声に出して名前を言ってしまった。
しずくが男の子の下の名前を呼んだのは初めてだったから。
「あ、私ってば!ごごごごめんなさい!!あ、じゃあ私帰るねっ!!また明日ね、しずくっ!!!」
繭は名前で呼んでしまったのにたいし、思い切り謝った。
そして逃げるようにしてその場を去っていった。
今の此処には私の居場所がないと思ったから。
走りながら何故かそう思った。涙が出た。

バタンッ、、、
「…はぁ」
と、溜め息を付きながら繭は家に帰って早々ベットに横になった。
「しずくに彼氏がいたなんて‥ずっと私と一緒にいると思ってたのに…やっぱり、いつかは離れちゃうんかな‥」
そう考えると涙が出てきた。そう思うのが辛かった。
まだ中学に入ったばっかで恋愛なんて考えこともない繭には淋しかった。
「しずくは私より日高先輩を選んだんだよね…あの笑顔、私見たことなかったもん‥」
いつかはなると思ってた。
しずくだって彼氏ができればお嫁にだって行く。
でもせめてまだ子供のうちは私を見ていてほしかったな…。
そう思いながら、繭はゆっくりと眠りについた。

ダダダッッッ!!!
ピンポーン!
「しずく!おっはよー!!学校いこー!!」
昨日のことがなかったかのように繭は晴れ晴れした気持ちでしずくの家に向かった。
ガチャ。
ドアが開いた。しずくのお母さんが出てきた。
「あら、繭ちゃん?しずくなら男の子がうちに来て一緒に行っちゃったわよ〜?」
「お、おとこのこ!!!??」
たったったっ・・・
繭は急ぎ足で学校に向かった。
絶対しずく、日高先輩と行ったんだ。でも何で私のこと避けるの?!私のこと嫌いになったの!!?

ガラッ!
「あ、繭ちょんオッハ〜♪」
「み、三奈ピョン!!しずく知らないっ!!?」
「藍河さん?あぁ、日高先輩と居たけど…」
タッッッ!!
「えっ!繭ちょんっ!?」
私のこと嫌いになったなら言って。
しずくが私を避けてる理由は分からないけど、でも私は仲良くしたいっていつも思ってるから‥!!
繭はしずくを捜しに学校内を走った。
そして走ったゆえ、たどりついたのは三年生の教室だった。
「はぁ、はぁ、あ、し、しずくっっ!!」
「あ、繭ちゃん」
最初に繭に気付いたのは日高先輩だった。
その隣にしずくが居た。下を向いていた。小刻みに震えていた。
「はぁ、え、あ、し、しずく?おは、よ、どした‥の??」
パァンッッッ!!!
いきなり大きな音がした。繭は頬に痛みを感じた。
「痛…し、しずく?どうして‥えっ…?」
しずくが繭の頬を突然叩いた。
でも何もできなかった、言葉しかでない。
動けない。
「しずくちゃん、止めなよ」
「うるさいわねっ!!黙っててよっっ!!」
「ねぇ、しずく!何っ!?どうしたのよ、ねぇっ!!」
ドンッ!!
「しずくちゃんっ!!」
日高先輩がしずくを抑えたにもかかわらず、しずくは繭を睨みつけながら前に押し倒した。
険しい顔で、しずくは繭を見た。その顔を見た繭は驚いた。
しずくは辛そうな顔で泣いていた。
「しずく…」
「だ‥き…い」
「え?」
「…アンタなんて大嫌いよ!繭っ!!私の大事なものを奪わないで!!」
「!?‥しずく!!?」
「どうせアンタだってかげで何か言ってるんでしょう!?分かってるんだから!!
 繭なんて‥アンタなんて消えちゃえ!!私の前から居なくなってよぅっ!!!」
ダッッ!!!
「しずくっ!!?」
しずくはそう言い残してどこかへ走っていってしまった。
キーンコーン・・・
「え、わ、予鈴・・・ん‥私しずく捜してきますっ!!」
繭がそう言って、立ち去ろうとした瞬間、日高先輩が繭の腕を掴んだ。
「ちょ、何ですか!?離してくださいっ!!」
ギュッと掴んだまま離さない。そして口を開いた。
「今言うことじゃないって分かってる‥でも俺、繭ちゃんが好きなんだ、付き合ってくれないかな…?」
「はぁ!?」
突然の日高先輩の言葉に驚いた。
しかし、繭はハッキリ言った。
「何言ってんの!?フザけないで!!しずくのこと泣かすような人、大っ嫌いよ!!」
バッと腕を振り切って繭はその場から立ち去った。

しずく、しずく・・しずく・・・・!!!!!!!!!
頭の中がしずくでいっぱいになる。
消えちゃえ?何で。私、雫に何をした?
考えても考えても何もわからない。繭には身に覚えがまったくなかった。
繭は走った。
しずくが居そうな場所へ。
だいたい女子が一人でいたくなればトイレに篭るだろう。
でもしずくはそんな奴じゃない。
いるとしたら・・・。

教室。

でも何処のクラスもHR中だ。
考えても解らない。しずくの居場所。しずくの・・・逃げ出す場所・・・。
裏をかいて・・やっぱり・・・女子トイレ?

タッ!

繭は走った。しずくを探す為に学校中をひたすら。
しずく、ねぇしずく。どうして?ねぇ。
お願い、私のこと嫌いにならないで・・・―――――――――

「はぁはぁ・・・何で・・・いないのぉ・・・」
繭は女子トイレを見たが誰も見当たらない。どこに消えたのか見当がつかなくなった。
繭はその場でしゃがみこんでしまった。そしてそのまま泣いて叫んだ。
「ねぇ・・しずく・・・しずく出てきてよぅ!!!!!!!!!」
がさっ!
「!? 今・・外で音が聞こえた・・・?」
タッ!
繭は窓から裏庭を覗いた。繭のいる位置は1階の女子トイレ。裏庭はスグそこだった。
そこに一人の影が見えた。
「…何しにきたの、繭」
そこには、繭の捜し求めていた大事な人、しずくが立っていた。

「し、しずくぅ!!!!」
窓から自分の身体を外に放り投げた。そして、しずくのもとへ一直線に走っていった。
「こないで!!!繭!!!アンタ、私のこと文句いったくせに!!!」
「え・・・?し、しずく?何言ってんの・・?ねぇ・・・?え・・・?」
「とぼけないでよ!!全部・・全部優くんから聞いたんだからね!!私のことなんて嫌いなくせに!!!」
何の話か全くわからない繭は、その場で泣いてしまった。
「何言ってんの・・私がしずくのこと・・嫌いなはずなんてないのに・・何で・・・」
「ちょっと・・何で泣くのよ・・・繭、何で泣くのよぉ!」
「しずくのこと嫌いなんて思ったことなかったよ!?私、ずっとずっとしずくを尊敬してて羨ましくて…!」
「ま・・・繭・・・?」
歯を食いしばって、繭は言った。大きい声で、しずくに。
「・・ずっとずっと大好きな親友だと思ってたのは私だけだったの!!!?」
「・・・」
しずくは黙りこんでしまった。繭は目にたまった涙を手でぬぐった。
そして、沈黙の中、口を開いたのはしずくだった。

「・・優くんが…繭が私のことを堅苦しくて、付き合ってると疲れるし、
 嫌いだけど面倒みてるだけって言ってたって…言ってたの・・・」
「へ?」
「それで・・・繭は私のこと嫌いなのに、無理矢理いつも元気に・・私の相手してるんだって思って…同情してるんだって思って…」
「先輩が・・そんなこと言ってたの?」
「うん・・・私、優くんを信じちゃってた…初めて私のことを本当に好きでいてくれた男の人だったから…」
「え、まって!!私さっき先輩に告られたんだけど!!?」
話がわからなくて、繭は混乱してしまった。しずくはそのまま説明していった。
「さっき、繭がくる前にこの話をしてたのね・・そしたら優くんが小さく言ってたの聞いた…」
「な、何言ったの・・・?」
「そんな繭の方が本当は好きなんだけどなって…泣きたかった…苦しくて、そこに居たくなくて…」
「しずく・・・」
涙が出そうになるしずくを、繭は優しく抱き寄せた。
「私がいるよぉ、ずっと、これからもずっと、私しずくと一緒にいるから…」
「繭・・・」
繭はそう言って、また泣いてしまった。それに続き、しずくを涙を流してこう言った。
「ありがとう・・ごめんね…繭のこと、信じなくて・・本当に・・ごめんなさい・・・繭・・・」
二人は裏庭で泣きつづけた。ずっとずっと、1時間のチャイムが鳴るまでそこで。

いつまでも、私達は一緒にいられる。
大親友の証。


「しずくーーーー!!!!学校行こうーーーーーー!!!!!!!」



そしてまた、1日が始まる。

書こうと思ったきっかけは当時オフラインで色々あったため。
この作品もだいぶ古いため、当時のことがはっきり覚えていません…。