私には、大事な人一人を守れる力がなかった。
「ゆさきぃ!!!!!!」
私の手のうちから消えていった。たった一人の大事な妹・・。

ベストシスター

「・・お姉ちゃん!起きてよ!」
ドスンッ!と、自分のお腹の辺りに何かが乗っかった。
「いつまで寝てるのよー。ご飯冷めちゃうよー?」
「え、あ、ゆ・・ゆさき?!」
「は?何驚いてんの?ゆさきに決まってんじゃん。ほらーさっさと起きてよっっ!!」
ガッーっと布団をはがされて、みゆきはゆっくり起き上がった。
さっきのは夢?そう考えながら、私はゆさきについていった。

「お母さんーお姉ちゃん、やっと起きたよー」
「みゆき、今日は皆で出掛けるって行ったでしょう。早くご飯食べて着替えなさいねー」
「はーい・・」
まだあの夢が頭から離れないでいた。妹が消えた。あの衝撃的な夢。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「え、ううん、何でもないよ、気にしないでいいからね」
何も考えずに平常心でいられるだろうか。可愛い妹がここにいる。それだけで幸せなのに。

ゆさきは私と10歳離れている。ゆさきは小学3年で、私は高校3年、今年受験が待っている。
受験っていうだけで切羽詰まってるのに、あんな夢を見るなんて。


「わーい!!おっきぃーー!!お姉ちゃん来てきてー!!」
「あんまりはしゃがないのー。危ないでしょー。ゆさきってばー!」
車で数時間、私は家族と一緒に海に来た。
海に来たと行っても日帰りで少し見て遊ぶ程度。
夏休みにまた家族で海にくるから、その下見みたいなものだ。
「お母さんー!海の水、少しさわってもいーいー?」
「手前の方だけよー!奥まで入っちゃダメだからねー!」
「やった!お姉ちゃん!海!海の方行こう!!」
グイッ!と、みゆきは手を引っ張られ、ゆさきの思うがままにされていた。
でも、こんな妹が誰よりも好き。一番大事な娘みたいに。
自己中なところがあるけれど、そんなところさえも昔から好きだった。

「あはは、冷たいよー!あははっ!」
パシャパシャと海の水を掛け合い、遊んでいた。
真っ赤な太陽の見える青空の下にキラキラと青い海が光っている。
そんな、まだ海開きされていない場所に、私たちだけが遊んでいる。
水の音と子供の声とともに、二人の時間がどんどん進む。
このまま時が止まってほしいくらい一緒にいて楽しかった。

思い崩れ、その時はいきなり訪れるものなんだ。
また、あの時を繰り返すなんて。


「あー楽しかったー!お姉ちゃん!今度の夏休みもいっぱい遊べればいいねー!」
「そうだねー。またいっぱい一緒に遊ぼうねー」
「約束だよ!!」
そう言いながら、ゆさきは右手の小指を差し出した。
それに答え、みゆきも右手の小指を差し出して、こう言った。
「約束・・ね・・!」


「みゆきーゆさきー・・」
車のほうでお母さんが名前を呼んでいた。今はもう赤い日が差す夕方だった。
そろそろ帰らないといけない時間になっていた。明日はまだ学校がある。
「ゆさき、お母さんたち呼んでるからそろそろ帰ろう」
「・・・っ」
「ゆさき?」

バタッ、、

突然だった。
何が起きたのか分からないくらいに。

「ゆさき・・?何、どうしたのよ、ゆさき!!!??」
「・・・」
ゆさきはみゆきが声をかけても返事をしなかった。
いきなりみゆきの目の前で倒れ、何も声を発さないゆさき。
「ゆさき!!ゆさき!!お母さん!!ゆさきがぁっ!!!」
そんな妹をみゆきはしゃがみ込んで抱きしめ叫んだ。
何があったか全く分からない。ただ叫ぶ事しかできなかった。

ゆさきはみゆきの腕の中で、深い、深い眠りについた。
8年の命だった。


あの後、すぐに救急車で運ばれ、ゆさきはスグに電気ショックで刺激された。
暖まりきっていた体が、冷たく、青白い。
病院に着いてからは何も見れなかった。ただ、扉の向こうに眠ったゆさきがいるだけ。
信じることしかできなかった。なのに、なのに。

「みゆき、みゆき、しっかりしなさい」
そうやって、肩を叩きながら声をかけてくれたのはお父さんだった。
「ゆさきは、まだ私たちの中で生きているだろう、違うか?」
「お父さん・・」
涙が止まらなかった。現実だと思いたくなかった。
またあの時みたく夢で、朝起こしてもらえないかと考えていた。
だけど、受け止めないといけない事実が辛かった。受け止めたくなかった。

だけど、お父さんのこの一言で、みゆきは少し立ち直れた。
『お姉ちゃん!』
この声が、ずっと私の心に残ってる。


死んだらどこに行くんだろう。私は、こう思う度に震えていた。
私の存在を認めてくれた人が、どれだけ泣いてくれるだろう。
その涙を見ることなく、私はこの世を去っていく。
それが私にとって、さらに辛くて仕方ない。

あなたのために私は泣くよ。大事な人に涙をあげるよ。
ゆさき、たった一人の妹。好きで、好きでしょうがなかった。
今、あなたはどこで私を見てくれてる?


あの海にまた行くとき、あなたの姿は見つからない。
約束が果たせなかった。みゆきの中でまた涙が溜まった。
「こんな顔してたら、ゆさきに怒られちゃうかな・・」
そう呟きながら、ペシッ!と、一回、両頬を叩いた。
「頑張らないと・・ゆさきの分まで・・!」
グッと、手に力を入れて気合いをためる。
明日からは泣かないよ。涙はあなたのためのもの。


病院の外に出て木陰に座り込み、上を見て、みさきは叫んだ。
「ゆさきーーー!!私、あんたの分まで、頑張るからーーー!!」
夏休みは小学校に行こう。懐かしの先生に会って挨拶して、ゆさきのクラスにも行って
思い出を持って帰ろう。
受験勉強もしよう。行きたい学校もちゃんと決めて、ゆさきに笑われないようにしよう。

「お姉ちゃん、頑張るから」

そう思いつつ、私は今日もあの海と空を思いだす。

ベストシスターは姉妹の愛をテーマにした作品です。
ただただ、死ということを前提に書いていたので、執筆速度ははやかったです。
死亡原因を友達に色々相談しました。いきなり倒れて死ぬということにたいして。
あえて書きませんでしたが、私の中では熱射病死と考えています。
でも、本当は小さい頃からゆさきに病気があったかもしれない。だから難しくは書きません。
全部携帯で打って、パソコンに送ったので、変な文字あったらごめんなさい。
死ぬことに対して感じてる私の気持ちもこの話にいれました。

―――死んだらどこに行くんだろう。

2003/07/12