ずっとずっと憧れていた。
「郁早く来なよー早くー!」
憧れていたから、私は來みたいになりたいと思ってた。
でも、なれるわけないんだ。私は、私だから・・・

双子物語 〜憧れの人〜

「おっし!とうちゃーく!!あ、いたいた!みっんなー!!」
大きく手を振る來の後ろで急いで追いかける郁の姿。
來に誘われて、郁は來の学校の友達と一緒に遊ぶ約束になっていた。
「來遅いー。あ、その子が郁ちゃん?!」
「うん!うちの双子の妹の郁!名門高校とか行っちゃっててめっちゃ頭いいんよー!」
「ってゆか、可愛くね!?來より可愛いんじゃねー」
「榊!!うっさい!!!黙れ!!!」
そんな風にはしゃぎながら、來は学校の友達とふざけあっていた。
郁はそんな來のいつもと変わらない状況を見て、少し笑ってしまった。
「ほら、郁も笑わない!」
ビシっと指されて、思わずもっと笑ってしまった。
普段、学校でこんなにもはしゃぐことがないから、凄く、凄く新鮮だった。

「よっし!じゃぁー皆切符買って!!私の後ろに続くことを命ずるー!!」
「何、來がしきってのよー。あんた道わかんないでしょー」
「いーじゃん!!私がリーダー!!郁に良いとこ見せたいんだから!!」
「あーかなり無理してる、來ってばー。だいたいどこまで切符買うか知ってんのー?」
「うっ・・」
見たところ、來はいつもこんな調子なんだっていうのがわかった。
皆に親しまれてて、仲良くて、私なんかとは、全然違う。

双子なのに、どうしてこんなにも変わってしまったんだろう。

「はい、これ切符、郁ちゃんの分だよ」
「あ、ありがとう・・えっと・・」
「俺の名前ねー榊っていうんだーよろしくねーv」
「さ、榊くん・・ありがとう・・」
「・・・うっわ!!マジ可愛い!!連れて帰っちゃいてぇし!!!」
ちょっと照れながらお礼を言っただけなのに、こんな反応されたの初めてだった。
学校の男友達は、こんなハジけてる人いないから、とても不思議だった。
名門高校とかそんなのどうでもよかった。私はもっと自由に生きたかった。
本当は、來みたいに、生きてみたかった。
「榊、あんた何、うちの子に手ぇ出してんの・・?」
にっこりと、それでいて少し怒りに満ちた來が、郁の方へとやってきた。
そのあと起こった來と榊の惨劇は、結構悲痛なものだった。


「うっわ!!すっごい何コレ!!かなりいいし!!!」
「來、あんたはしゃぎすぎだってー。たかが観覧車で・・!w」
皆で向かった先は遊園地だった。そして今は遊園地の観覧車に乗っている。
観覧車に乗って、全体を眺めてから他のアトラクションに乗ろうという計画だった。
來はカバンからスケッチブックと鉛筆を取り出して、おもぐろに絵を描き始めた。
「お、いつものきたなー」
そうやって言ったのが來の友達の良恵ちゃんだった。ずっと來にツッコミをいれていた子だ。
來がスケッチブックを取り出すのは毎度のことで、それくらい絵を描くのが好きなのだ。
それは、郁が本が好きなくらい、來も絵が好きだということで。

「でっきたー!」
「見せて見せてー!」
「最高傑作!!やっば、私ってばマジ天才かもしんないし!!?」
「なーに言っての!あんた毎回言ってるじゃないー」
そんな風に笑いながら観覧車の中ではしゃぐ皆を見て、郁はなんだか切なくなってきた。
來はここで友達がいて、私と全く違う世界を持っていて、私は、何ができたんだろう。

あの空気に入れない自分がいた。
私は・・來みたく明るく振舞うことも、何もできない。

「な、郁!!?どうしたの!!!?」
「え・・何が・・?」
声をかけてくれたのは來だった。
「何って!!あんた泣いてるよ!!?大丈夫!!?」
泣いてる?手を自分の目のあたりに当ててみた。ほんのり濡れている。本当に泣いてたらしい。
目の前で來がおどおどしているのを見た。郁はそれを見て少し動揺してしまった。
「だ、大丈夫だから、ごめんね、來・・ごめん・・」
「郁ちゃん、何かあったらスグ言ってくれよ!?俺も助けるからね!?」
そう言ってくれたのは榊くんだった。どんっと少し胸を叩いて言ってくれた。
「ううん、大丈夫。本当、大丈夫だから・・」

観覧車が終わって、郁は急いで外に出て行ってしまった。
情けない。
こんなにも感情がもろくて、一人で悔んでる自分が情けない。

もう、誰にも会う顔なんてないよ。



「郁!!」
ばっと後ろを振り向くと、そこには來が追いかけてきてた。
腕を思いっきり引っ張られて引きとめられてしまった。
「郁、今日・・無理矢理連れてきてごめん・・私のせいでしょ、そうでしょ?」
「・・違う。誰のせいでもないの・・私のせいだから・・」
來の学校の友達と遊ぶと決まったとき、正直、自分は一人で。知り合いが誰もいなくて不安だと思ってた。
だけど、來がいるから大丈夫だと思っていた。傍にいてくれると思ってた。
一緒に遊びたいって言われて少し嬉しかった。
でも、いつも以上に來が、遠くにいるような気がしてならなかった。
來が・・お姉ちゃんが、離れていった気がしたんだ。


「・・あーもー!!」
突然、來が大きな声をあげて叫んだ。そして郁に向かって言い出した。
「あんた、いっつも考えすぎだっつーの!」
ペシッと軽くおでこを叩かれた郁はキョトンとしてしまった。
「何年一緒に居ると思ってんの!?私達ずっと一緒でしょ!?その辺わかってんの!!?」
「え・・あ・・」
「私が郁で、郁が私ってこと!!それくらいお互い分かり切ってるでしょ!?」
顔を近づけられながら、力強く、思いっきりその言葉を受けた。

「私は、これでも郁のこと憧れてたんだから・・」
「・・え?」
「こんなこと言うの恥かしいけど、ずっと一緒にいて、郁のこと、ずっと憧れてたの・・!」
「ど、どうして・・?私は來みたいに何でもできるような人じゃないのに・・」
そう、來には出来て、私には何もできなかった。
普通ならできること全て、來にはできて、郁にはできなかった。
「あんた優しすぎるの!!素直すぎなの!!わかる!?私がそうゆうタイプじゃないって!!?」
「え、うん・・來は・・活発タイプだから・・」
「・・もっと女の子らしくなりたいって、ずっと郁みたいになりたいって思ってたんだから・・」
「あ、私だって、ずっと・・ずっと來に憧れてたのに・・」
來が言っているのに押されて、郁も思わず口に出してしまった。
「は!?私のどこがいいっつーの!?いいとこなんて何もないじゃん?!」
「私だってもっと明るく振舞って、來みたくもっと元気な子になりたいって思ってたもん!!」
「あんた何言ってんの!?充分明るいじゃない!?普通に元気な子じゃない!!?」
「明るい!?明るくなんかないし!?私は來みたいに友達と一緒にいてもあんな風になれない!!」
「そんなん知らないわよ!!自分で変わろうと思えば変われるんじゃないの!?」
「だったら・・だったら來だって私みたいになればいいじゃない!!なってみなさいよ!!」
そんな口論が続いてる中で、後ろで声が聞こえた。

「來も郁ちゃんも!その辺でストーップ!!」
「さ、榊!」「榊くん!?」
二人は同時にその名前を呼んだ。喧嘩両成敗と言ったところだろうか。二人を見事止めてみせた。
そして一言、こう言った。
「二人には二人で、お互い良いとこがあるんだろー?だったらさーそれでいいんじゃねー?」
來と郁は二人で見合って、ただ呆然としていた。

私達は、お互いがお互いで、自分が相手で相手が自分で、何もかもを分かっていた。
喧嘩だって、しょっちゅうだった。泣いたり笑ったりも一緒だった。
だから相手を見て、ずっと相手を好きで、離れたくなくて。
いつか君になれたらいいなと、何度もそう願っていて。
気持ちが繋がっていれば、離れることなんてないはずのに。ずっと憧れていた君は、ずっと傍にいるのに。
大好きだからこそ、あなたに惹かれて。大好きだからこぞ、ずっとあなたに憧れていた。

「ちょ、ねぇ、何か言ってよ、俺何か一人で言ってて淋しいじゃん!w」
そう言う榊くんを見て、來と郁は確認し合うかのように言った。
「ありがとう!」
笑みをこぼして、二人は進んだ。手を繋いで二人は進んだ。
もう恐くなんかないよ。自分のこと、誇りに思えばいいんだ。
教えてもらった自分の良いところ、もっともっと磨きあげていけばいいんだよね。
「よっし!じゃ、行きますか!ほら、郁行くよ!」
「うん!」


そのあと遊んでいくうちに、今までと違う何かを掴んだ気がした。
帰り際には良恵ちゃんがこんなことを言い出した。
「ほんと、仲良いね、二人とも」
二人は見合ってこう言った。
「ずっと一緒だから・・!」

まだ子供だから考えられる事があるんだ。
大人になったら離れ離れになって自立していくかもしれない。
だけど、まだ、まだ一緒にいられる時間があるから、私達は離れないよ。
大好きな人がいつも隣りにいてくれる。
それだけで、幸せなんだ。


「ね、今度二人でさ、夜の街、見に行かない?すっごい綺麗なところ知ってるんだーv」
「行く行く!來とだったらどこまででも行っちゃうし?」
あははっと、笑いながらそんな会話を繰り返す。

憧れの人は隣りの人。
いつまでも、大好きな人。

初の看板娘たちの小説です。
最後の來の言葉は1万打の時の絵に繋がるような感じで書いてみました。
憧れの人は双子の片割れとかってどうなんだろ、あるもんなのか?
最初は榊くんが來に告白したりするシーンを作ろうとか思ったけどやめました。
微妙に私情な部分もまた入ってたりする作品です。

――――・・こんなにも感情がもろくて、一人で悩んでる自分が情けない。

2003/10/13