まっすぐ前を見た。
両手の人差し指と親指を突き出して四角を作って校舎を見た。

「さらば、わが母校ー」

私は今日、学校を卒業した。

卒業 −学び舎−

体育館から、後輩の声や先生の声と、椅子などを片付けている音が聞こえた。
「わ、もう片付けてるよ、早いなー」
卒業式は沈黙の中、2時間近くに渡って終了した。
私、片岡知佳(かたおか ちか)も、今日卒業した一人だった。
卒業証書を受けった際、一人両手をあげて、ステージの上ではしゃいだのはきっと私だけだろう。
「私、この学校大好きだったよーーー」
なんて、馬鹿みたいに言ったら、校長先生はちょっと怒ってた。当たり前だけど。
そのくらい、この学校が私にとって、一生かけがえのないものだった。

「知佳ー!一緒に写真撮らんー?」
「行く行く!!超撮る!!!」
下駄箱近くにいる友達に、そう誘われ、私はそれに応じた。
「知佳みたいな奴、また今度会えるかわからんもんなー」
「何それ、私みたいな馬鹿が他にいないっつーことか」
あはは、と笑いながら、そんな会話を繰り返して、私達は何枚も、何枚も写真を撮った。
最後の制服と、卒業証書を片手に。

「皆離れ離れなんよね、進路」
私は友達にそう言った。高校生という中での進路は、自分の大人への道に等しい。
「就職も大学もバラバラだけど、まぁ、でも、いつまでも友達、ね」
「私は結局フリーターだしなぁ」
ちょっと溜息をついた。私は進路なんてかったるくて決めなかった人間だった。
そんな風に職員室でめんどくさい、などと堂々言ったせいで、殆どの先生がカナリ困っていた様子だったけど。
「でもさ、それが知佳ってもんじゃない?知佳らしいよ」
皆は、私のことを分かっていてくれた。だからこうやって言ってくれる。
どうしようもない奴だったけど、私っていうものを見てくれていた。
「へへ、何だよ、照れるじゃーん。もうほんと、皆大好きーーー」
なんて言いながら、私は顔を少し赤らめながら皆に抱きついて、そう言った。


そんな風に笑いあって過ごした今日も、もうすぐお別れの時間だった。
「それじゃ、また絶対会おうね!!約束だかんね、遊ぼうねー」
友達がそれぞれそんなことを言いながら手を振り、学校の校門を出て行った。
私は、うっすらと皆の目が光っていたのを見た。
だけど私は、目が光らないように、精一杯の笑顔で皆とバイバイをした。

「・・よっし!!」
私は、友達と別れたあとに、すぐさま教室に向かった。
下駄箱を通って、すぐ近くの階段を3階まであがって、右に曲がった2つ目の教室が自分のクラス。
いや違う、これは、さっきまで私のクラスだった。・・今は、もう。

私は自分の机に向かった。
「み・ぎ・か・ら・に・ば・ん・め・ま・え・か・ら・に・ば・ん・め・っと・・」
私はその場所の椅子に座った。ギシギシと思いっきり鳴くのが私の椅子だった。

「あーこれ、まだ残ってたんだー」
机に伏せて横目で見てみると、授業中に暇で仕方なかった時にシャーペンの先で彫った文字があった。
「何でこんな言葉書いたかなぁ、あほくせぇー」
そこに彫っていた文字は"I LAVE YOU"だった。
"A"の下には友達に直されて彫られた"O"の字もあった。とことん馬鹿みたいだ。

私は伏せたまま、物思いに浸っていた。
「こっからの窓の外、格別だったなぁー」
隣りを向けば、男子の席だった、けれど、それを飛び越えれば大きな窓があった。
そこから見える風景は校庭。夕方になると赤い夕日が街の中に見えた。
校庭で部活動をしている声なども、放課後には、この場所から聞いていた。
「よく居残りしたもんなぁ、ほんっと、よく卒業できたな、私」
授業はまともに受けなかった、サボったことも多々あった。
天気の良い日は学校に来ても屋上で寝ていたりしたこともあった。
先生には全てお見通しで、いっつもバレて生徒指導室で怒られてばかりだったけれど。
私のこと理解してくれる先生もいたけれど、先生は私が1年生の時に辞めてしまった。
でも、まだ大好きな先生もまだ学校にいた。というか、もう皆大好きだった。
生徒指導の先生だけは好きになれなかったけど、今日、卒業式ではその先生が泣いていた。驚いた。
正直、あのごっつい体格で思いっきり泣くなんて、予想もつかなかった。ちょっと笑ってしまった。

「よっし!」
バンっと机を叩いて、私はイキナリ立ち上がった。そしてその場で大きく背伸びをした。
窓の近くまで行き、窓を開けた。
そこで軽く深呼吸をした。
そして思いっきり息を吸いこんでから、叫んだ。

「今までありがとーーーーーーー」

それが今精一杯の気持ちだった。

私は荷物を全部持って走るようにして教室を出て行った。
1年生の時から目をつけられる子供でした。
だけど、友達はいっぱいできました。
小学校の時からずっと、こんな調子で学校生活を送ってました。
無理なくせに高校に入って初めて生徒会長に立候補とかもしてみました。
それはたしか、2年生の時だった。当然落ちたけれど。
相手は学校で1番の秀才だったし、先生の評価良かったし。
その代わり、3年生の時には学級委員長になれました。
だけど辞めさせられました。サボりすぎで。
1年生の時に大好きで、私のことを見ていてくれた先生に言われました。
片岡には片岡のいいところがあるよ、って。
私はどうしようもない馬鹿だったけど、その言葉が何よりも心に感じました。
生徒指導の先生には毎回毎回、お前はどうしようもない馬鹿だな、と言われたりもしました。
そんなの分かった。だけど、それが私にとっての長所であり短所だった。
入学式の時からはしゃいでごめんなさい。いっぱい迷惑をかけました。
体育祭ではハリキリすぎて得点板壊してごめんなさい。
文化祭の時にあった軽音のライブに乱入して歌いだしたこともあったっけ。
修学旅行では遭難しそうになったりもしたなぁ。
テストのことは、もう思い出したくもないや。
担任の先生は、泣きながら一緒に卒業しようなって言ってくれた。
そんな私も、卒業できたよ。先生のおかげ。皆のおかげ。

こんなことを考えながら、私は学校の校門にまで辿りついた。

息を切らせながら、私は校舎を見た。その少し薄汚れた白い校舎を。

両手の人差し指と親指を突き出して四角を作って校舎に向けた。
形を定めて、校舎全体がその四角の中に入るように動いた。
そして、その校舎を片目をつぶって、視点を合わせながら、私はこう叫び、言った。

「さらば、わが母校ーーーー」

「・・今までほんとの、ほんとに、ありがとーーーー」

「さようならーーーーー」

出てきた涙は止まらなかった。
だけど私は校舎を背にして走り去った。

もう、振り返らない。
思い出は、もう、私の胸の中にあるよ。

今日、私は学校を卒業をした。
その実感をまだ、胸の中でかみしめているよ。
小学校、中学校、高校と、この12年間の思い出を、ずっと。ずっと。

明日からは、もう、学生じゃない。
私自身で、生きるんだ。



私はまっすぐ前を見た。


赤い夕日が出る街に向かって走った。

卒業をテーマに書きたくなって、すぐさま書いてみました。
小説に出てくる教室の位置は、自分と同じ場所で。あと知佳の座った席も自分と同じだったりで。
大きな窓からは、自分の教室からは裏庭しか見えませんが。。
そんな風にちょっと思い出も振り返りつつ、書いてみました。
これを書いてる頃はまだ自分は卒業していませんが、学校にありがとう、と。
ていうか、学校自体はあれでしたが、友達に感謝かな。

ご卒業、おめでとうございます。

2004/03/10