勇気のカケラ

学校の子が仲良く話しをしているのを目で追って見ていた。
でも一瞬その子達と目が合うと、ちとせはすぐに顔をそらしてしまった。
その子達は少し気まずそうにこっちを見ていた。そして、一人の子が、こっちに向かってきた。
「あ、あの、ちとせちゃん・・」と、その子がちとせに言う。
しかし、ちとせは話しかけられる途中で、そのまま逃げてしまった。
・・本当は友達になりたかった。
けれど、勇気を出せなくて、なかなかできなかった。

家に着き、ちとせは自分の家のベットに転がりこんだ。
「・・どうして・・こんなに臆病なんだろ・・」
なんて、自分を嫌に思いながら、そのまま目をつぶって眠りについてしまった。

「・・あれ?」ちとせが眠っていると、いつしか暗闇の中に人を見つけた。
あそこに人がいる。この暗闇の中、女の子が一人。
夢?現実?それすらもわからなかった。
「誰だろ・・」ちとせはその女の子のそばに近づいてみた。
女の子の背中まで来て、その女の子が涙を流しているのがわかった。
声をかけたかった。でも、少し怖い気持ちがあった。
「・・っ!」ちとせは手に力をグッといれた。
そして、勇気を出して、その女の子に声をかけた。

「ね、ねぇ・・あなた・・誰?」一言そう話かけたが、返事は何一つとしてなかった。
不思議に思いつつ、ちとせは少し焦ったが、今度は自己紹介をしながら話しかけた。
「えっと・・あのね、私の名前は――・・」
「知ってる・・ちとせちゃん・・」「え、うん。ちとせだけど・・あれ?」
突然の女の子の言葉に、ちとせは驚いた。どうして私の名前知ってるんだろう・・。
いや、それ以前に、どうしてそんな淋しい声でキミは喋るの・・?

小さな体が震えてる。ちとせのことを見ながら少し、少しずつ、その女の子の体は震えていた。
そんなその子を見る度に、ちとせの心まで泣きそうになる。・・どうしてかな・・。

ぱっと、いきなり目が覚めた。
「あ、あれ・・あの子・・は??」目の前に見えたのは見なれた景色。自分の家。
あのちょっとの間のできごとは一体・・?あの子がいない、私の世界。
「・・夢・・だったの・・?」
あの女の子がいた場所、それは夢だった。夢世界だった。
その夢が、いきなり、覚めてしまった。
一瞬の出来事だった。

夏真盛りで、太陽はギンギンに光っていた。照らす太陽を見て、ちとせは思った。
あの子がいない。ここには、あの子がいない。
そう思うと自然にちとせの目からは涙が溢れてきた。
「会いたいよ・・あの子に会いたい・・」

会いたい。会わなくちゃ。
強く思う感情に、いきなり、眠気が訪れた。

また目が覚めた時、あたりは暗闇だった。
その中で、後姿が淋しい女の子が一人、ちとせの目の前で泣いていた。
ポロポロぽろぽろ泣いていたその子は、真っ暗闇の中で独りぼっちだった。

「ひとりぼっちなの・・?」ちとせは思わず、後ろからそうやって声をかけてしまった。
「・・ひとりぼっち??」振りかえりながら、その子はちとせに尋ねた。
「ひとりぼっち・・分からない・・その言葉・・私にはよくわからない・・」
そう言いながら、その子はたくさん、たくさん涙を流した。

ちとせはグッと手に力をいれて、その子を抱きしめた。
「ねぇ、泣かないで。」
どうして泣いているの?私がいるよ、ここには私がいるよ。
もう大丈夫。
ヒトリじゃないよ。
ぎゅっと抱きしめたまま、ちとせは言った。
その子の涙が、更にこの暗闇の世界を、暗く、照らさない夜にさせていく気がしたから。

「・・友達になりたいな。私、キミと友達になりたい。」
ちとせはそう言って、その子に手を伸ばした。
二人の出会いは、神様が決めたこと、そうやって思ったの。
だから、心を開いて、暗闇から起きて、私と一緒に太陽を見に行こうよ。
「笑った方が、楽しいよ。」
ちとせは満面の笑顔で言った。

私が笑って、初めて、キミも笑ってくれた。
天使にみたいな微笑みが、凄く、凄く、眩しかった。
その後キミは、ゆっくり口を開いて言った。
「ありがとう、ちとせちゃん・・。あのね、私の名前・・ヒメっていうの・・」
「ヒメちゃん!うんっ、ヒメちゃん!」
ぎゅーっと手を握った。握ることで、友達のあかしになる気がした。

ちとせはヒメの手をとって、「遊ぼうよ。」と言った。
そして二人は少し、少しずつ明るくなってきたこの暗闇で遊んだ。
すると、「・・ありがとう」と、ヒメはちとせに言った。
「ううん・・こっちこそ、ヒメちゃんと友達になれて嬉しいから。ありがとう。」
ヒメは何も言わず、また笑顔でちとせの方を向いた。
あ、あれ・・? その笑顔の先に、少し自分の顔がダブった。
そう思った瞬間、ちとせは目が覚めてしまった。
夢の中で出会ったヒメちゃんは・・どこ・・?
ちとせはあたりを見まわした、けれどやっぱり部屋には自分しかいなかった。

・・思い返した、今の、夢の物語を。
勇気を出せた自分を。独りぼっちだったあの女の子を。
最後に自分とダブって見えた、あの女の子を。

あぁ、そっか、 "似てる" んじゃないんだ。
あれは、 "私" だったんだ。
独りぼっちで震えていて、怖がって。

でも、勇気を出して友達になれたじゃない。
さっき、ヒメちゃんとちゃんと、お友達になれたじゃない。
ちとせは少し笑った。笑いながら、少しだけ涙が零れてた。
何だか明日から、少し、少しずつだけど、変われそうな気がした。

次の日の朝、学校に行く途中に昨日の学校の子を見かけた。
ちとせはいっぱい、いっぱい震えていた。
でも、ヒメちゃんのことを思い出した。
思い出すと、ヒメちゃんが心の中で「大丈夫」って言ってくれた気がした。
「・・うん」ちとせは勇気を出した。
「お、おはよう・・っ!!」
ちとせが話かけると、その子は少しビックリしながら、
「おはよう、ちとせちゃん」と笑顔で言ってくれた。
すると、ちとせも自然と笑顔になった。
「ちとせちゃん、一緒に行こうか」と、その子は手を取ってくれた。
ちとせは嬉しくて仕方がなかった。
勇気を出せて、本当に良かったと思った。

ヒメちゃんとの出会いはやっぱり神様が決めたことだと思った。
本当にありがとう。
と、ちとせは思いながら、学校でできた友達と一緒に手を繋いでいった。

ほら、太陽が夢の中でも笑ってる。

マンガのプロットをそのまま小説として掲載しました。 もともとは昔に描いた絵本で、それを改造したような作品です。
前はちとせちゃんは元気っ子でお友達になってあげるっていうだけの設定だったのですが、
これじゃちとせちゃんは何も乗り越えないで、ヒメちゃんが主人公みたいねと先生に言われたので、
ちとせちゃんがおどおどした子になって、その上、キャラ絵自体も変わり。。
そのキャラ絵は昔自分が作ったキャラの唯ちゃんって子とかそんなでorz
でも名前がちとせのままなので何だか自分じゃ不思議な気分です。。。

2004/10/25